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前投稿からの続き
<余談>として、帆船の元キャプテン(故人)からの話「航海中、船体が軋む音を聞くと安心する」とのエピソードも伺った。 船体からの音に関しては、日本丸の木工ドアーの隙間が目に浮かんだが、機関士との感じ方の違いに戸惑った。
近代帆船がなぜ廃れてしまったのか?もう少し考えてみた。
風の力を補助推進力とする帆装船は、スピードをあまり重視しない船種に限られるので建造隻数が増えずに船価は高止まりして、保守整備ができる技術者は限られしまった。
操船面では、コンピューターの支援があったとはいえ。乗組員は機関の推進力に加えて風を推進力に利用する技能も兼ね備えていなければならず、頼りのコンピューターは、ソフト更新する必要があっても就航船からのデータ量が少なく、現場(船)から信頼できる装置にはならなかった。そして、廃れてしまった最大の要因は経済面だったと言える。謳われていた省エネ効果(少なく見積もっても20%程度)は、就航数年後には得られなくなり、初期投資の回収には至らなかった。
昨今、近代帆装船(機主帆従方式 機関と帆による推進力を並列使用可)の建造が復活したのは、40年前とは格段に進歩した、各種のセンサー・通信機器(技術)、ビックデーターを処理できるコンピューター(操船に特化したA.I.もどき)及び新素材によって、省エネと操船に要する労力を軽減できる見込みがついたからと思う。謳われている省エネ効果は一桁止まりで最も大きい数字でも20%以下の様だ。
最も変化が顕著なのは「帆」である。帆船時代は、帆の展張・畳帆、張り具合調整、ヤードの上げ下げ・対風向の角度調整 等々、ロープを介して行う操作にManpower は不可欠だったが、今は人が居ない。昔は、風を受けて柔らかい帆が膨らんで走るが、近代の帆船の帆は、マストと一体となりロープはない。
帆を根本的に変えたのが前稿の「新愛徳丸」であり、硬い帆を開いたり畳む操作は油圧シリンダーで行っていた。
硬翼帆を付けた「ウィンドチャレンジャー計画」の船は、風向によっては飛行機の翼が浮力を生む理屈で推進力を得ている。 また、北欧で既に就航している「ローターセイル」を設置した船は、野球の球種カーブが曲がる理屈「マグヌス効果」で説明できる。帆とは程遠いイメージだが、回転するマスト状の円筒が風の力を推進力に変える。
違う理屈だが、「サクションウイング」という翼状のマストで推進力を得る船もあり、帆を広げて走る船とは違った形体の帆船も既に就航している。
帆船は汽船(燃料がエネルギー源)とは違い、エネルギーを補給しながら推進していると言える。短絡に考えれば、風さえ吹いていれば燃料を予め積込む必要はなく、燃料を運ぶエネルキーも不要になるので、100%の省エネ船とも言える。
化石燃料は無論の事、他の自然エネルギーは多種多様な装置(カラクリ)を動かさなければ推進力に変換できないが、風の力だけは船の推進エネルギーとしてそのまま利用できる。
10年後の太洋航路には帆走する船影がめずらしくなくなり、帆装船の寿命は燃料次第と推測している。惜しむらくは船の姿である。古い帆船の優雅さは全くなく、船首近くにマストが立っている姿から、やがて使われなくなった大昔のローマ軍船「カラス」をふと思い出した。
終わり